おたふくかぜはワクチンで防ぐべき病気(VPD)です

 

 おたふくかぜは、誰もが知っている病気です。しかし、「おたふくかぜには治療法がないこと」を知る人は少なく、「子どものうちにかかっても、1000人に1人が難聴になる」ことや「おたふくかぜのために流産することがある」ことを知る人はさらに減ります。このため予防接種を利用せずに、自然にかかる方が良いのだろうと考える方、そう勧める医療関係者がいることは大変残念なことです。

 おたふくかぜの予防接種は生ワクチンで、弱毒化の技術が難しいこともあり、おたふくかぜウイルスのもつ神経毒性により現在日本で用いられているワクチンでは接種後0.05%無菌性髄膜炎の発生があります。かつてMMRワクチン接種後に高頻度(約0.16%)の無菌性髄膜炎が発生してMMRワクチンが中止となった事件をご記憶の方もおられると思いますが、これはおたふくかぜのウラベ株に野生株を混入した違法行為による事件であり、現在使用されている国産おたふくかぜワクチンは決して危険なものではありません。海外で多く用いられているJerylLynn株に比べて、抗体の持続は優れており、また海外で使用しているMMRワクチンは国産のものでは既に使用しなくなっているゼラチンを含有するため、アレルギー反応を起こす可能性があります。このためこれを輸入するよりも、既に国内で使用しているおたふくかぜワクチンのほうが適切ですが、問題は、数千人に1人程度無菌性髄膜炎を発症することを許容するかどうかということになります。無菌性髄膜炎は後遺症を残さず治る病気ですし、おたふくかぜに自然に感染した場合はワクチン後の100倍の確率で無菌性髄膜炎を合併します。ワクチンをしないほうがこの点でも危険なのです。

 かつては、おたふくかぜの合併症は極めてまれなことだと考えられており、ワクチンで防ぐほどのものでないとも考えられがちでした。しかし、おたふくかぜにかかった後に難聴になった患者さんは耳鼻科にだけ受診することが多く、小児科医が知らなかっただけであり、最近の調査ではおたふくかぜにかかった約1000人のうち1人が高度の難聴になるという結果が出ています。日本以外の諸国ではMMRワクチンの徹底により、既におたふくかぜは過去の病気となっており、海外からは難聴になる危険のあるおたふくかぜの予防に日本がなぜ努めないのか不審がられています。おたふくかぜはワクチンで防ぐべき病気だと知って、ワクチンを子どもたちに受けさせてあげましょう。

(橋本裕美)

 

 感染症, ワクチン   投稿日:2013/05/01