里帰り

 

cc055 都会の子ども達は、里帰りをして、祖父母や自然に出会うと、いっぱい思い出ができます。そして、おとなになっても、それは、からだのどこかに鮮明な感覚となって蘇るようです。

 私の母の生家は、庭先に山が迫っています。里帰りをして、その斜面に生えている肉桂の細い根をひきちぎって、樹皮を噛み砕くと、口の中にほのかな香りが漂いました。

 構内の傍(かたわ)らに弁財天の祠(ほこら)があり、お祭りの日には、社務所の仮小屋に上って、参詣の人々に蝋燭(ろうそく)や縁起物を渡すのを手伝いました。

 夏には、午前4時頃に目を醒まして、くぬぎ林に見付けてある甲虫の“巣”にでかけました。鍬形(くわがた)や坊主を生け捕ると、虫籠へ入れないで、からだに付けて帰ります。すると、シャツの上から首筋の肌へ虫が這い出してきて、ゾッと鳥肌が立つのです。

 昼は、面白くて、珍しいことばかりで走り廻って遊びます。でも、夜は恐ろしいのです。重い襖に囲まれた座敷の闇の中に寝かされるのです。

 恐ろしくて、いくら眠ろうとしても、廊下を渡る風の音がサラサラといつまでも聞こえるようで、いまにも魑魅魍魎(ちみもうりょう)が襖のすき間から入ってくるのではないかと、からだを縮め、息を潜めているうちに、ねむってしまうのです。

 北摂に住んで居られるS先生は「この頃うちの周りはお里になりました。学校も休みになると都会の親子がおおぜい見えるようになりました」と言われます。「お里」も変るのです。長期自然体験村や親しむ博物館なども企画されています。

 田舎や自然は、ひとの心を優しく迎えてくれますが、闇や毒茸もあります。テレビやゲームなど肌に伝わらない遊びや生活で過ごしている現代っ子は、お里の人々や祖父母との交流の中で、いろいろな体験ができるでしょう。

(菅原重道)

 

 家族とのかかわり   投稿日:2006/09/01