| 「MRSAに関する最近の知見」 |
| 大阪府立母子保健総合医療センター |
| 新生児科 北島博之 |
| 1961年に英国で初めてMRSAが報告され、1970年代に世界各国でMRSA感染の増加がみられ深刻な問題となりました.しかし1980年代に入ると、各国で抗生剤使用の厳密な対策が行われた結果、急激に減少しましたが、日本においてのみ急激な増加を示しました.日本ではグラム陰性桿菌対策に新しいセフェム系薬剤の開発ラッシュとなり、予防的な投与も含め多くの新しい抗生剤が成人領域で使用され更に耐性化を促しました. |
| 新生児領域では、1990年代に入り全国のNICU(新生児集中治療室)で問題になり、特にTSST陽性のMRSA(主にコアグラ-ゼ2型)がNTED(新生児TSS様発疹症)を発症させる機序が解明されて新聞報道も一時激増しました.実際このβラクタム薬耐性のMRSAは、1980年代中頃から成人領域で急激に拡がり、その後成人病棟から院内医療スタッフの移動によりNICUに伝播し定着したと考えられます. MRSAは細菌学的に見れば、抗生剤に耐性があるだけで、他のブドウ球菌よりも発育が遅いため生体において菌自身の生命力は弱い菌です.つまり正常新生児であれば、生まれてすぐに母親に抱かれ母子同室で母乳哺育を行えば、母親の皮膚にあるブドウ球菌が児の皮膚や咽頭に定着し、MRSAがその後に植え付けられてもすでに定着しているブドウ球菌を凌駕して増菌することはできないため、症状は全くでません.一方帝王切開児によく発症するのは、帝王切開後は数日間、主に職員がケアすることが多く、母親が抱けないだけではなく母乳哺育をして口腔・咽頭に母親の菌をつけて予防することができないからです. 最近の新聞報道では、NICUよりも一般の正常新生児室の報告が多くなっています.しかし、上記の理由でその発症例は極めて少なく、重症化している例もほとんどありません.つまりMRSAが毒素を持っていても、単独で増菌することが無い限り症状は出ず、母子同室の正常新生児には定着しても問題はありません.ただ鼻腔・咽頭の拭き取りで選択培養をすれば必ず検出されることになり、保菌しているとレッテルが貼られます.この単なる保菌状態が感染症と報道されるため、一般の人々に誤解されることが一番大きな問題なのです. |